アピリッツはインターネットの黎明期より、ウェブサイトのシステム開発や運用 を行っており、特に個人情報を多く扱う「求人サイト」の構築運用において多く のノウハウがあります。求人サイトの場合、安全なサイト運用を求められるため、WAF による防御を前提としたシステム構築を提案する案件が多くありました。
このような背景から、アピリッツは2010年にWAFの月額サービス提供を開始し ました。このサービスは、海外製のハードウェアWAFを冗長構成にし、アピリッ ツによる24時間365日運用監視を提供するサービスでした。また、アピリッツ では顧客サイトの定期的な診断も行っていました。診断で発見された脆弱性は、ウェブサイトにパッチを当てたり、作り直したりすることで脆弱性の対策が求め られますが、WAF をサービスとして提供し、その対策になるシグネチャをアピリッ ツが作成することで、ほとんどのウェブサイトの脆弱性は外部からの攻撃から守 られることになりました。
ある大手保険会社グループの求人サイトに対しても、アピリッツは海外製WAF を導入し、運用を行ってきました。しかし、この海外製WAF では運用面に課題 がありました。具体的な例をあげると、一般的なFirewall やサーバと異なり、海外製 WAFでは再起動時にMaster/Slave の切り替えが正常に行われないことが多々あったのです。年に3-4 回発生するファームウェアアップデートについては、事前に手順書を作成し、リハーサルを行っているにもかかわらず、一度で正しく アップデートが行われずに、毎回サービス停止を伴うトラブルが発生していまし た。このような状況のため、メンテナンス作業は必ず深夜から早朝にかけて行っていました。
また、日本の環境では、海外製WAF で初期設定されている防御ポリシーをそのまま運用すると、誤検知が発生することがありました。例えば、日本でのみ流通 している日本製のスマートフォンやフィーチャーフォンから海外製WAF導入サ イトへアクセスした場合、ブラウザのUserAgent が特殊なため、正常通信がブロックされることがありました。さらに、ファームウェアアップデートにより、文字 長制限(Length Check) のポリシーが強化されたために、以前は問題がなかった通 信が急に遮断されることがありました。ファームウェアアップデートを行う際は、変更内容の確認、及び全設定パラメータのチェックが必要となり、多大なリソー スが必要でした。
アピリッツ 執行役員データイノベーション部長の 西脇氏は、「WAF がエンドユーザの前面に設置され るため、WAF が停止するとサイト自体が停止にな ります。WAF のファームウェアアップデートだけでも手順書作成からリハーサルを事前に実施し、実 際のアップデート作業は深夜早朝帯のメンテナンス 時間で実施する必要がありました。そこまでしても、正常なアップデートができないケースが多々あった ために、その度に原因調査に時間やリソースを割かれてしまい、非常にWAF運用の負荷が高かったです。そこで “手放し運転” ができるWAF サービス への切り替えを検討せざるを得なかったのです」と話します。